車椅子ユーザーにとっての「実家」の住み心地と課題

車椅子ライターの「実家」論。

筆者(mai)は大学で一人暮らしを始めた後、車椅子生活になるまで実家を離れて暮らしていました。
色々と事情があって車椅子生活になったのを機に実家で生活することになりましたが、実家は築数十年のバリアフルな住宅でした。

もちろん、そのままでは車椅子で生活することは困難です。

住み慣れている実家で暮らすというのは、心理的には安心感があるかもしれません。
しかし、築数十年の家を車椅子で生活できるようにするためには、様々な過程があります。

車椅子での実家の住み心地と、住宅改修・改造の履歴

筆者の家はバブル時代に建てられた築数十年の注文住宅です。
当時は間仕切りに段差のない“バリアフリーな造り”の家もチラホラ見かけましたがまだまだ珍しかったと思います。
玄関、上り框には数十センチの段差、室内も段差だらけでバリアだらけ、家事動線も全く考えられていないような造りの家で家の手伝いをするにも勝手が悪く、お駄賃の上乗せを要求していたような気がします・・・
専業主婦で主に家の家事を担っていた母も、使いにくいと嘆いており、健康な人にも住みやすいとは言い難い家の造りです。

健康でも使い勝手が良いと言えない家は、車椅子生活になってみると問題が山積みです。
実家に戻って来た頃は、私自身も家族も、本当にここで生活できるのか不安しかなく、お互いに一杯一杯で、小さなことで喧嘩が絶えませんでした。

高齢や病気、障害により既存の住宅で暮らすのが難しくなった場合、住宅を住めるように改修するための住宅改修費用は自治体から補助が出る場合があります。
身体の状態や自治体によって受けられる補助の内容は異なりますが、ほとんどの場合、補助金だけでは十分に自立した生活を送る程度の改装を施すのは難しいです。

筆者の場合は全てを一気に改装する金銭的余裕がなかったことや、築年数的に実家自体を建て替える可能性があったのであまり大きな改修には踏み込めず、優先順位の高いところから少しずつ手を加えていくことになりました。

まず玄関の外の段差が外出を阻んでいたのでスロープを設置。敷地の関係上、自分でスロープを昇り降りできる勾配は確保できませんでしたが、介助する家族も楽になったので、外に出る機会が増えました。

その後トイレ、お風呂に手すりの設置、お風呂は洗い場と脱衣所の段差をなくしました。

部屋と廊下のドアの段差は市販の段差解消の小さなスロープ状のものを利用して対処しています。

その後、車を購入したので駐車スペースをコンクリートに変更しました。

車椅子での生活は、リハビリでの生活状況の改善、または病状の悪化などで必要な設備がどんどん変わってくることがあります。
その為、元々バリアフリーではない築年数の経った家の場合、改修をしても次から次へと課題が見つかることもしばしばです。

筆者の例でいうと、最初に外出のためにスロープを設置しました。
自力で車椅子をこぐことが出来ない勾配なので、外出には介助を要します。
設置当時はそれで良かったのですが、その後車を運転するようになり一人で外出できるようになったので、誰かがいないと玄関にたどり着けない今の構造は当事者である筆者も家族も不便な状況です。
スロープではなく昇降機を選択していれば、生活が変わっても対処できたのですが、スロープをつけた後にまた昇降機を設置というのはスペースや予算の関係上難しいです。
住宅改修では、先の生活まで見越して行う必要があります。しかし、先の生活は予想通りにいかないことも現実です。

実家という環境は家族にできないことを手伝ってもらえるというメリットがありますが、住宅環境によっては自身でできることが限られてしまい、QOL(生活の質)の低下に繋がる懸念もあります。

築数十年の実家で暮らすということ。

住宅の性能は、この数十年でかなりの進歩を遂げました。
バリアフリーを意識していなくても段差のほとんどない家は当たり前ですし、高気密・高断熱化により冷暖房費も抑えられ、廊下と部屋の温度差も少なくなりヒートショックも予防することができます。

何十年も住んでいる家は愛着もありますし、住み慣れています。
しかし、高齢になったり病気や障害を負ったりして今までと同じような動作が難しくなると、住み慣れた実家であっても「慣れ」だけではどうしようもない部分が出て来てしまうことも事実です。

建て替えとリフォーム – 家づくりと資金の問題

住み慣れた実家をバリアフリー仕様に改修するためにはお金がかかります。
しかし、住宅改修でできることには限界があります。構造上どうしても変更できない柱などのために改修をしても車椅子で動ける範囲が限られてしまったり、気密性が低いため部屋と廊下の温度差は解消されなかったり、改修ではどうにもならない部分も出てくることがあります。

また、お金をかけて住宅改修をしても、家の寿命が伸びるわけではありません。
基礎や躯体の劣化、地震によるダメージ、性能低下等は改修でどうにかなるものではないので、住宅改修した後、その家に何年住めるのかということは考えておかなければなりません。

住宅改修をして住んでいたけれど、家が古くなって来たので建て替えを・・・
となると、改修費用と建替費用どちらもかかってしまいますが、最初から建て替えを選択していたら元の家の改修費用は節約できることになります。

愛着のある家を建て替えるというのは、なかなかすぐに決められることではありません。
しかし、家には寿命があります。
また、改修ではどうにもできない部分もあることも事実です。

建て替えるか、改修をするかの判断には長期的な資金計画や、現在の家をどれくらい住みやすくできるかなど、専門的な知識も必要になってくることですので、悩んだ際にはプロに相談することが確実です。

相談する際には資金計画のプロ(ファイナンシャルプランナー等)、福祉のプロ(ケアマネージャー、福祉相談員等)、住宅のプロ(施工会社スタッフ、建築士等)など様々な分野のプロに意見を聞くことが大切です。

リガードのスタッフにはファイナンシャルプランナーや福祉住環境コーディネーターの資格を持っているプロも在籍しているので、様々な視点で相談に乗ってくれるでしょう。

リガードでは高気密高断熱の質の高い家を提供しています。
家の中で温度差が少なくなるので、高齢者や持病のある方でも安心して過ごすことができるでしょう。

住み慣れた家を改修するか、建て替えるか・・・
悩んでいる方は一度相談してみると良いのではないでしょうか?

 

著者プロフィール

maitoran(堀江麻衣)
ライター 堀江麻衣さん近影

不動産分野全般に執筆実績と関心のあるフリーライター。
2014年に中途で障害を持ち、以来「日々の暮らしの”不便”を”便利”に変える」をモットーに、家づくりについて研究中。
日々、住まいを改造・改築しながら、快適な家づくりを目指している。
趣味:スケート観戦、ハンドメイド(羊毛フェルトでなんでも作る)、間取り図を見ること、旅行。
2匹の犬と暮らして溺愛中。

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