車椅子でも動きやすい家のために。バリアフリー住宅において「幅」を考える重要性

家づくりにおいて、車椅子利用を見越した「幅」を確保する重要性

もしも将来車椅子生活を余儀なくされた場合、住んでいた家に住み続ける為には住宅改修が必要な場合が多いです。
車椅子は立って歩いている人よりも幅が広くなってしまうので、今までの廊下の幅では車椅子が通行できないと言う場合、廊下の幅を拡げるリフォームが必要になります。

しかし、廊下の幅を拡げるリフォームは大掛かりなものなので費用がかかります。家の構造によっては後から幅を広げることはできない場合もあります。

そうなってしまうと引越しや施設などを検討しなくてはならないかもしれません。

今は家族みんなが足腰が丈夫であっても、何十年も住むマイホームですから、先のことはわからないです。
もちろんいつまでも健康に歩けることが一番ですが、もしもの時の備えを家づくりの時から考えておけば、そんな時でも安心して住み慣れた家に住み続けることができます。

もしもの時に住み続けることが出来る家のために、車椅子の幅や寸法を考えた設計が重要になります。

車椅子の内輪差とは

自動車は曲がる時に前輪と後輪で内輪差が生じます。
この内輪差で巻き込み事故を起こしやすいから注意するように、というのは自動車教習所で必ず言われることなのでご存知の方も多いでしょう。

車椅子もタイヤで稼働する乗り物なので、曲がり角を曲がる際に自動車のように内輪差が生じます。
そのため、車椅子の幅ギリギリの通路だとまっすぐ進むことはできますが、曲がったり方向転換をしたりすることができず、一方通行になってしまいます。

また、介助者が横を歩く場合は車椅子の幅にさらに人が通れる幅が必要になります。

そのため、廊下に必要な内法寸法は車椅子の幅よりも大きくなります。

バリアフリー設計に必要な「家の寸法」

家の寸法を見るときには、図面では実際に使える部分(内法・有効幅)を確認します。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。

廊下の寸法

日本の家屋の基本的な廊下の内法は780mmです。
自走用車椅子の場合、幅は620〜630mm程度なので、車椅子を漕ぐ手の位置や内輪差を考えるとこの幅では厳しいです。
自走用車椅子が余裕をもって通れる廊下の幅が900mm以上と言われています。

トイレの寸法

トイレの寸法は介助の有り無し、車椅子から便器への移乗の方法により異なります。

介助が必要な場合
側方アプローチの場合
前方アプローチの場合

奥行き1515mm・幅1515mm
奥行き1820mm・幅1820mm
奥行き1800mm
介助をする場合は介助者が動きやすいように便器の前方、側方に介助者が動けるスペースを500mm以上確保することが望ましいです。
車椅子利用者で介助を必要としない場合にもっとも多い移乗方法です。
便器の位置を車椅子が直線で入って移乗出来るように工夫をすることで動作がしやすくなります。
スペースの確保が難しい場合は前方アプローチが一番幅を取りません。
前方アプローチの場合はドアが真後ろにくるため、車椅子利用者本人が自力でドアを閉めることは難しいです。

トイレのドアはいずれの場合も引戸が望ましいです。
難しい場合は、万が一トイレ内で倒れても救出できるように外開きにします。

玄関の寸法

玄関は車椅子で直進をするためのスペース、方向転換をするスペースが必要です。
室内と外で車椅子を乗り換える場合は外で使う車椅子を収納するスペースと、移乗の為のスペースも必要になります。

また、上りかまちの段差を解消するスロープや段差解消機等も必要になります。

これらを考慮して設計の際に必要な幅を確保します。

玄関で介助を受けて車椅子を乗り換える場合は、幅2100mm以上、玄関土間奥行き1200mm以上、玄関アプローチ奥行き1500mm以上が必要になります。

ドアの寸法

ドアは自走用車椅子を漕いでいても通れる幅を確保します。有効幅員850mm〜90mm程度あると良いでしょう。
あまり広すぎるとドアが重く使い勝手が悪くなってしまいます。ドアハンドルは座ったままでも使用できるように、床から80~100cmの場所に設置します。

基本的に引戸が望ましいですが、難しい場合は開き戸を開いた時に車椅子でも動けるスペースを確保しなければなりません。
フラッターレールを採用すればドアのレールの段差も乗り越えられます。

住んでから「車椅子で使えない」がないように・・・

せっかく車椅子が通れる幅を確保していても、広いからと観葉植物などを飾ってしまって結局通れないなんてこともよくあります。
このようなケースが外で起きたのなら変えることはできませんが、せめて家の中だけでも快適な生活を送りたいものですよね。
車椅子で快適に生活を送るためには、幅の確保は必要不可欠なことなのです。

しかし、現在の日本の家屋では廊下の有効幅は一般的に780mmと、車椅子が通れる仕様ではありません。
このような日本の廊下にも対応できる小回りの効く6輪車椅子というものもあります。
車椅子に家を合わせるだけでなく、車椅子を家に合わせるという視点も大切かもしれませんね。

しかし、障害の程度によってはそれが難しい場合もあります。

上述の寸法は標準的な車椅子の場合です。
実際は使用している車椅子の種類や車椅子利用者や介助者の捜査技術によって必要な幅は異なります。
電動車椅子やリクライニング式の車椅子を利用している場合、もっと広いスペースが必要になります。

リガードさんの家は、建築家と建てるハイグレードセミオーダー住宅なので、「お使いの車椅子に対応した間取り」といったご要望にもお答えすることができます。気になる方はぜひ、お気軽にお問い合わせください。

 

著者プロフィール

maitoran(堀江麻衣)
ライター 堀江麻衣さん近影

不動産分野全般に執筆実績と関心のあるフリーライター。
2014年に中途で障害を持ち、以来「日々の暮らしの”不便”を”便利”に変える」をモットーに、家づくりについて研究中。
日々、住まいを改造・改築しながら、快適な家づくりを目指している。
趣味:スケート観戦、ハンドメイド(羊毛フェルトでなんでも作る)、間取り図を見ること、旅行。
2匹の犬と暮らして溺愛中。

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