「小規模宅地等の特例」適用のメリット 二世帯住宅は名義ひとつで生涯費用が変わる?

二世帯住宅に認められる「小規模宅地等の特例」とは?

ハウスメーカーや工務店で「二世帯住宅を考えているんですが…」と相談すると、「今は『小規模宅地等の特例』があるから、相続でも有利なんです」という営業トークを聞くことがしばしばありますよね。

でも、「小規模宅地等の特例」とは一体どんな制度なのでしょう。「何度も説明を聞いたのに、未だによく分からない」という方もおられるのではないでしょうか。

この記事では、二世帯住宅と「小規模宅地等の特例」という制度がどう関わってくるのかを説明します。親世帯からの資金援助を受けて二世帯住宅を建てよう、と考えている方は必見です。

二世帯住宅の名義と登記の考え方

住宅を建てたときには、「その土地や建物の持ち主は誰なのか」を法務局に申請します。これが「登記」です。

建設資金を出したのが1人ならば、もちろんその人を所有者として登記します。しかし、親世帯からの援助を受けて二世帯住宅を建てた場合などは、資金を出した人全員を所有者として登記することになります。

二世帯住宅を複数人の名義で登記する場合、その方法は2種類あります。

ひとつは「共有登記」。土地や住宅全体をひとつの財産として、名義人がそれぞれ何%ずつ所有権を持っているかを登記する方法です。

もうひとつは「区分登記」。1階部分を親世帯、2階部分を子世帯といったように、それぞれ別の2件の住宅として登記する方法です。

ただし区分登記をする場合は、建物の内部が完全に分かれている「完全分離型二世帯住宅」でなければいけません。反対に、完全分離型の二世帯住宅でも、共有登記にすることはできます。また、共有登記は手間や手数料が1件分で済みますが、区分登記の場合は2件分の手間と手数料がかかります。

どちらの登記方法をとるにしても、資金を出した割合によって登記の名義を決める必要があります。親世帯に資金援助を受けたのに、子世帯の旦那様1人の単独登記にしたといった場合には、援助された資金に対して贈与税がかかってしまうことがあるためです。

二世帯住宅は、いつかは「相続」される

二世帯住宅の多くは、親世帯のお父様・お母様と、子世帯の旦那様・奥様が資金を出し合って建てることになります。そのため登記の名義も、親世帯のお父様・お母様、子世帯の旦那様・奥様と複数になっています。

親世帯のお父様・お母様が亡くなられた際は、親世帯の持分となっている二世帯住宅を、子世帯の旦那様・奥様が「相続」することになります。

ここで相続税というコストがかかるわけですが、その額は数百万円に上ることが珍しくありません。

現在住んでいる自宅をそのまま使い続けるだけなのに、数百万円の相続税がかかるなんて、ちょっと納得がいきませんよね。

そこで、救済のために作られた制度が「小規模宅地等の特例」です。

小規模宅地等の特例 – 土地の相続に認められる減額

「小規模宅地等の特例」とは、亡くなられた方の住んでいた宅地などについて、一定の条件を満たした場合には相続税を軽減する制度です。

土地にかかる相続税を計算する場合、その土地の「固定資産評価額」がベースとなります。「小規模宅地等の特例」を適用すると、固定資産評価額を最大80%減額することができるのです。

たとえば固定資産評価額が1億円の土地であっても、2,000万円として相続税を計算するという制度なのです。

この特例を適用することで、二世帯住宅にかかる生涯費用も大きく変わってきます。

小規模宅地とは?

ただし先にも言ったように、「小規模宅地等の特例」を利用するためには、いくつかの条件があります。

まず、相続する土地が宅地であること。そして、宅地の面積が330m2以下であることです。

宅地とは「住宅の敷地に供されている土地」。つまり、「土地の上に住宅が建っていますよ」と登記された土地のことです。二世帯住宅の場合は、宅地として登記することになるので、これは問題ありません。

また、制度名にある「小規模宅地」という言葉のとおり、適用できる土地の広さにも上限が設けられています。330m2というと約100坪ですが、これを超える広さの宅地であっても、部分的に適用することが可能です。

そのほかにも、「亡くなった人が実際にその土地に住んでいたか」「相続する人がその土地に住んでいたか」といった細かい規定があります。そのすべてを列挙するとあまりに長くなってしまうので、ここでは省略します。

現時点では、「小規模宅地等の特例は、二世帯住宅の相続の場合、土地の面積が330m2以下なら適用できる」と覚えておけば十分です。
また、「小規模宅地等の特例」は土地の相続についての制度なので、建物には適用されないことにご注意ください。

減額の効果

では、「小規模宅地等の特例」を適用した場合、相続税がどのくらい安くなるのか、実際に計算してみましょう。

例として、固定資産評価額が3,000万円の土地に建っている二世帯住宅だとしましょう。親世帯のお父様と子世帯の旦那様で、それぞれ1/2ずつ共有登記をしています。

親世帯と子世帯は、ずっとその二世帯住宅に住んでいて、「小規模宅地等の特例」が適用される条件をすべて満たしています。

親世帯のお父様には、二世帯住宅が建っている土地のほかに、2,000万円の資産がありました。そのお父様が亡くなった場合、相続税はいくらになるのでしょうか。

ここでは法定相続人は、配偶者である親世帯のお母様と、長男である子世帯の旦那様の2人として計算します。

小規模宅地等の特例を用いない場合の相続税額

お父様の遺産の総額は、二世帯住宅の土地の1/2に2,000万円を加えて、4,500万円となります。


お父様の遺産額=3,000万 × 1/2 + 2,000万 = 4,500万

相続税の計算では、まず遺産総額から「基礎控除額」を差し引きます。基礎控除は3,000万円に加えて、法定相続人1人につき600万円と定められています。

このケースでは、相続税の基礎控除額は4,200万円となります。その金額を、遺産総額から差し引きます。

法定相続人が2人の場合の基礎控除額:3,000万 + 600万×2 = 4,200万円
基礎控除を引いた額:4,500万 – 4,200万 = 300万円

この300万円の遺産に対して、相続税がかかることとなります。相続税は、相続する遺産が多いほど税率が高くなる累進課税制度です。1000万円以下の遺産の相続にかかる税率は10%なので、300万円に10%を掛けます。


300万 × 10% = 30万円

この場合に支払わなければならない相続税は、30万円です。

小規模宅地等の特例を用いる場合の相続税額

小規模宅地等の特例を適用すると、土地の固定資産評価額が80%減額になります。3,000万円の土地の場合は、2,400万円が減額されて、600万円で計算されます。すると、お父様の遺産総額は2,300万円となります。


お父様の遺産額=(3,000万 – 3,000万 × 80%)×* 1/2 + 2,000万 = 2,300万円

法定相続人が2人の場合、相続税の基礎控除額は4,200万円です。遺産総額が基礎控除額を下回りますから、相続税はまったくかかりません。

つまり、小規模宅地等の特例を用いることで、30万円の相続税を節税できるのです。

完全分離型二世帯住宅と、小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例は、同居していたお父様・お母様が亡くなった場合、多額の相続税を支払うために住んでいた家を売らなければならないといったケースの救済として作られた制度です。

適用を受けるためには、亡くなった人と相続する人が生活を共にしている必要があります。二世帯住宅であっても、親世帯と子世帯が建物内で行き来できる構造なら、同居とみなされます。

しかし、玄関や水回りが別に造られている、建物内で行き来ができないといった完全分離型の二世帯住宅の場合は、小規模宅地等の特例が受けられなかったのです。

平成26年度の税制改正によって、完全分離型の二世帯住宅も制度の対象となりました。そのため、本来なら完全分離型にしたかったのに、後々に起こる相続を考えて諦めるといったこともなくなりました。

つまり、親世帯と子世帯が共同で出資して二世帯住宅を建てる、というハードルが下がったといえます。

区分所有登記には注意!

ただし、「完全分離型二世帯住宅を区分所有で登記している場合」は、今も特例の対象外となっています。

こういったケースまで特例の範囲に含めてしまうと、分譲マンションの1階に親世帯、8階に子世帯が住んでいるといった場合も適用になってしまうためです。

もちろん、完全分離型二世帯住宅であっても、共有登記されている場合には適用できます。

完全分離型の二世帯住宅を登記する際には、くれぐれもご注意を。相続が発生したときのことまで考えて、区分登記にするか共有登記にするかを決めましょう。

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